薬機法改正の最新動向
医療機器事業者が押さえるべきポイント
目次
1. はじめに
2025年に成立・公布された令和7年薬機法改正は、医薬品を中心とした制度改正に見えますが、医療機器事業者にとっても重要な意味を持つ改正です(参考文献1、2)。
今回の改正では、医薬品等の品質・安全性の確保、医療用医薬品等の安定供給、創薬環境の整備、薬局機能の強化などが主要な柱とされています。厚生労働省は、改正法に関する政省令・通知を順次公表しており、2025年11月施行分、2026年5月施行分など、段階的に制度整備が進んでいます。
医療機器分野では、製品データベース、バーコード表示、リアルワールドデータ、使用成績評価、薬事ガバナンス、安定供給といった論点が、今後さらに重要になります。
2. 令和7年薬機法改正の全体像
令和7年薬機法改正は、正式には「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部を改正する法律」です。厚生労働省は、この改正について、品質が確保された医薬品等を国民に迅速かつ適正に提供するための制度見直しと説明しています。
主な改正の柱は、次の4つです。
- 医薬品等の品質および安全性の確保の強化
- 医療用医薬品等の安定供給体制の強化
- より活発な創薬が行われる環境の整備
- 国民への医薬品の適正な提供のための薬局機能の強化
厚生労働省の概要資料では、製造販売業者における品質保証責任者・安全管理責任者の設置、法令違反時の責任役員変更命令、医療用医薬品の供給体制管理責任者の設置、出荷停止時の届出義務などが示されています。
3. 改正の背景
今回の改正の背景には、近年の医薬品供給不足、品質不正事案、創薬環境の変化、薬局・薬剤師の役割変化があります。
特に、品質不正や供給不足は、医薬品だけでなく医療機器業界にも共通する重要課題です。医療現場で使用される医療機器や処置具は、製品の有効性・安全性だけでなく、安定的に供給されること、製品情報が正確に管理されること、問題発生時に速やかに回収・情報提供できることが求められます。
そのため、今回の薬機法改正は「承認取得のための制度」だけでなく、製品ライフサイクル全体を管理する制度へと重心が移っているといえます。
4. 医療機器事業者に関係しやすい主なポイント
4-1. 品質・安全性確保と薬事ガバナンスの強化
今回の改正では、製造販売業者に対する品質・安全管理体制の強化が大きなテーマとなっています。
医薬品分野では、品質保証責任者や安全管理責任者の設置が法定化され、法令違反等があった場合には、薬事に関する業務に責任を有する役員の変更命令を可能とする制度が盛り込まれています。
医療機器事業者にとって重要なのは、今後、薬事・品質・安全管理が担当者レベルの実務にとどまらず、経営層のガバナンス課題としてより重視される点です。
特に、以下のような体制整備が重要になります。
- QMS体制の実効性確認
- GVP体制の見直し
- 不具合報告・回収判断の社内手順整備
- 国内品質業務運営責任者、製造販売業三役、責任役員間の役割明確化
- 海外製造元・国内製造販売業者・販売業者間の連絡体制整備
今後は「承認を取得しているか」だけでなく、「市販後も適切に管理できる企業か」が、取引先・医療機関・行政からより強く見られることになります。
4-2. 製品データベース登録とバーコード活用
医療機器事業者に直接関係しやすい論点の一つが、製品データベース登録とバーコード活用です。
薬機法第68条の2の5では、医薬品・医療機器等を特定するための商品コード、有効期限、製造番号または製造記号を含むバーコード表示が義務付けられています(参考文献7)。また、製品を特定するためには、商品コードと製品名をデータベースで照合できることが必要とされています。
これは、単なる表示ルールではありません。製品回収、取り違え防止、在庫管理、電子添文へのアクセス、物流DX、医療安全の基盤となるものです。
医療機器メーカーや製造販売業者は、次の情報の整合性を確認しておく必要があります。
- JANコード・GTIN
- 製品名
- 型番・カタログ番号
- 包装単位
- 製造番号・ロット番号
- 有効期限
- 電子添文情報
- 出荷単位と販売単位の関係
特に、内視鏡処置具、体内留置デバイス、単回使用医療機器などでは、回収対象ロットを迅速に特定できる体制が重要です。
4-3. リアルワールドデータ活用の明確化
今回の改正では、リアルワールドデータの薬事申請への利活用を明確化する方向性も示されています。
厚生労働省の医療機器・体外診断薬に関する意見交換会では、今回の改正により、リアルワールドデータの薬事申請への利活用を明確化し、承認申請時の添付資料の規定を一般的なものに改めることで、医療機器開発の促進が期待されると説明されています。
ただし、リアルワールドデータを活用できるからといって、臨床評価が不要になるわけではありません。リアルワールドデータの利活用については、ランダム化比較試験による厳密なエビデンスの重要性や、データの信頼性確保に留意した運用が前提となります。
医療機器事業者にとっては、開発初期から次のような視点を持つことが重要です。
- 市販後にどのようなデータを集めるか
- 医療機関での使用実績をどう記録するか
- 不具合・有害事象・使用成績をどう整理するか
- 使用成績評価や臨床評価に活用できるデータ設計になっているか
- レジストリ、電子カルテ、販売後調査との接続可能性があるか
特に新規性の高い医療機器や、既存治療との差別化が重要な製品では、承認取得前から市販後データの取得設計を組み込むことが望まれます。
4-4. 安定供給体制の重要性
今回の改正では、医療用医薬品等の安定供給体制の強化も大きな柱とされています。厚生労働省の資料では、医療用医薬品の供給体制管理責任者の設置、出荷停止時の届出、供給不足時の増産等に関する協力要請などが示されています。
医療機器についても、直接同じ規制がすべて適用されるわけではありませんが、医療現場に不可欠な製品については、安定供給の重要性がますます高まっています。
特に、以下のような製品では注意が必要です。
- 代替品が少ない医療機器
- 海外製造元に依存している製品
- 少量多品種の処置具
- 特定診療科で必須となるデバイス
- 供給停止が診療に直結する製品
医療機器事業者は、供給停止時の連絡体制、代替品の確認、在庫管理、海外製造元との情報共有、販売代理店との役割分担を整理しておく必要があります。
4-5. 革新的医療機器開発への相談体制
医療機器開発では、PMDA相談の活用も重要です。
PMDAは、2026年3月30日から「特区医療機器戦略相談」を「革新的医療機器戦略相談」に改称し、対象となる相談者を拡大しました(参考文献4、5)。この相談は、臨床研究中核病院における革新的な医療機器開発について、承認に向けた試験計画等を開発初期段階から助言することを目的としています。
医療機器開発では、早い段階で以下を整理することが重要です。
- 一般的名称
- クラス分類
- 承認・認証・届出の該当性
- 既存品との同等性
- 非臨床試験の要否
- 臨床評価の要否
- 使用目的・効能効果・性能の設定
- 市販後データの収集方針
特に、革新的医療機器、内視鏡治療デバイス、体内留置デバイス、SaMD、AI搭載医療機器などでは、開発初期の薬事戦略が上市時期や開発コストに大きく影響します。
5. 今後、医療機器企業が準備すべきこと
令和7年薬機法改正を踏まえ、医療機器事業者は次の点を早めに確認しておくべきです。
1. 薬事・品質体制の再点検
- QMS体制は実態に合っているか
- 三役・責任者・経営層の役割は明確か
- 不具合報告、回収、添付文書改訂の判断手順は整備されているか
- 海外製造元との品質契約・連絡ルートは明確か
2. 製品情報管理の整備
- 製品名、型番、JAN、GTIN、包装単位が整理されているか
- 電子添文との情報整合性が取れているか
- 販売代理店に提供している製品情報が最新か
- 回収時にロット・出荷先を追跡できるか
3. 市販後データの収集設計
- 使用成績や不具合情報を収集する仕組みがあるか
- 医師・医療機関からのフィードバックを開発に反映できるか
- 臨床的有用性を示すデータを継続的に蓄積できるか
- 将来の改良品・適応拡大に使えるデータ設計になっているか
4. 安定供給リスクの確認
- 原材料・部材の供給リスクは把握しているか
- 海外製造元への依存度は高すぎないか
- 代替製造先・代替部材の検討余地はあるか
- 販売代理店・医療機関への供給停止時の連絡手順はあるか
5. 開発初期からの薬事戦略
- PMDA相談を活用するタイミングは適切か
- 承認・認証・届出の区分を早期に確認しているか
- 非臨床試験、臨床評価、市販後調査を一体で設計しているか
- 海外展開を見据えた規格・試験・表示対応を検討しているか
6. まとめ
令和7年薬機法改正は、医薬品分野の制度改正が中心に見えますが、医療機器事業者にとっても重要な変化を含んでいます。
特に、医療機器企業が注目すべきポイントは次の5つです。
- 薬事・品質・安全管理に対する経営層の責任がより重くなること
- 製品データベース登録やバーコード管理が医療安全・物流管理の基盤になること
- リアルワールドデータの活用が、医療機器開発や市販後評価で重要になること
- 安定供給体制が企業の信頼性を左右すること
- 革新的医療機器では、開発初期からの薬事相談・薬事戦略が重要になること
今後の医療機器事業では、「承認を取る力」だけでなく、「品質を維持する力」「市販後データを活用する力」「安定供給する力」「製品情報を正確に管理する力」が、企業価値を左右します。
薬機法改正は、単なる規制強化ではなく、信頼性の高い医療機器企業が選ばれる流れを加速させるものです。医療機器メーカー、製造販売業者、販売代理店、開発支援企業は、今後の省令・通知・Q&Aを確認しながら、早めに社内体制を点検しておくことが重要です。
参考文献・関連リンク
-
厚生労働省:令和7年の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の一部改正について
- 改正法、概要資料、政省令、告示、関係通知がまとめられている厚生労働省の公式ページ。
-
厚生労働省:令和7年薬機法等改正法について(概要資料PDF)
- 改正法の背景、成立経緯、品質・安全性確保、安定供給、創薬環境整備、薬局機能強化などの概要資料。
-
- 薬機法改正による医薬品販売制度等の見直しに関する一般向け解説。
-
- 2026年3月30日から「特区医療機器戦略相談」から改称・対象拡大された相談制度の公式ページ。
-
- 革新的医療機器戦略相談への改称・対象拡大など、PMDAの最新情報掲載ページ。
-
厚生労働省:令和7年薬機法改正について(要指導医薬品関係・参考資料PDF)
- 2026年5月1日施行分を含む要指導医薬品関係の改正内容に関する参考資料。
-
厚生労働省:医薬品・医療機器等安全性情報 No.421(PDF)
- 医薬品・医療機器等のバーコード表示、商品コード、製品データベース登録等に関する安全性情報。