本レポートでは、2026年5月11日から5月17日までの医療機器・ヘルスケア業界の主要ニュースを整理します。今週は、医療機器大手による事業ポートフォリオの再編、次世代CGMやIVLなど成長領域への投資、ペースメーカー関連のClass Iリコール、国内医療機器メーカーの通期決算など、薬事・品質・事業開発の観点から注目すべき動きが見られました。
本稿では、単なるニュースの要約にとどまらず、医療機器メーカーが日本市場参入、薬事申請、市販後安全管理、海外展開を検討するうえで確認すべきポイントもあわせて整理します。
今週の主要ニュース
Stryker、Amplitude Vascular Systemsの買収を完了
Strykerは2026年5月7日、Amplitude Vascular Systems(AVS)の買収完了を発表しました。AVSは、末梢動脈疾患(PAD)における石灰化病変の治療を目的とした、次世代の血管内砕石術(IVL:Intravascular Lithotripsy)プラットフォームを開発している医療技術企業です。
Strykerの発表によれば、AVSの技術は、二酸化炭素(CO₂)により発生させた圧力波を用いて石灰化病変にアプローチするもので、Strykerは本買収により末梢血管領域の製品ポートフォリオを強化するとしています。
薬事・事業開発上の注目点
IVLは、末梢血管治療領域において成長が見込まれる技術分野です。買収による技術獲得は、大手医療機器メーカーが自社開発だけでなく、外部技術の取り込みによって製品ポートフォリオを拡張する動きの一例といえます。
一方で、新規性の高い治療機器では、既存品との差分、臨床評価、試験設計、使用方法、リスク管理、市販後安全管理の整理が重要になります。日本市場への展開を考える場合も、海外データの活用可能性、国内で求められる評価項目、既承認品との比較が論点になります。
Dexcom、次世代CGM「G8」の開発方針を提示
Dexcomは2026年のInvestor Dayにおいて、次世代持続血糖測定器(CGM)である「Dexcom G8」の開発方針を示しました。報道および投資家向け資料によれば、G8は現行モデルのG7より小型化され、自己適応型の精度補正技術を備えることが想定されています。
同社はG8について、2027年のFDAクリアランス申請、2027年末から2028年初頭の市場投入を見込んでいるとされています。また、将来的には血糖値に加え、ケトン体など複数分析物への対応も視野に入れていると報じられています。
薬事・事業開発上の注目点
CGMのようなデジタル要素を含む医療機器では、センサー性能、アルゴリズム、ソフトウェア更新、ユーザーインターフェース、データ連携、安全性情報の管理が薬事上の重要論点になります。
また、測定対象を血糖値以外に拡張する場合、製品の使用目的や性能評価の範囲が変わる可能性があります。日本での申請を検討する際には、既存CGMとの同等性だけでなく、新たな測定項目やアルゴリズムの位置づけを整理する必要があります。
Medtronic、カリフォルニア拠点の閉鎖と心血管領域の再編を進める方針
Medtronicは、カリフォルニア州サンタローザの拠点を約2年かけて閉鎖する方針を示したと報じられています。同社は心血管領域における事業体制の見直しも進めており、心臓外科、大動脈、構造的心疾患、冠動脈、腎デナーベーションなどの事業を再編する動きが伝えられています。
薬事・事業開発上の注目点
大手医療機器メーカーによる拠点再編は、単なるコスト削減だけでなく、研究開発、生産、品質保証、薬事、市販後対応の体制にも影響します。医療機器では、製造所、設計管理、QMS適合性、供給継続性が規制対応と密接に関係するため、拠点変更や事業再編の際には各国規制への影響確認が不可欠です。
日本向け製品についても、製造所情報、QMS適合性調査、変更管理、供給責任の整理が必要になる場合があります。
Boston Scientific、一部ペースメーカーおよびCRT-Pに関するClass Iリコール
FDAは、Boston Scientific製の一部ペースメーカーおよびCRT-P(心臓再同期療法ペースメーカー)に関する是正措置を、最も重大なClass Iリコールとして分類しました。対象には、ACCOLADE、ESSENTIO、PROPONENT、ALTRUA 2(以上、ペースメーカー)、およびVISIONIST、VALITUDE(CRT-P)などの一部機種が含まれます。
本件は、過去のリコールに続くフォローアップ対応として、Brady SMR6ソフトウェアアップデートおよび添付文書改訂により、バッテリーインピーダンス試験性能の改善とバッテリー寿命への影響への対応を図るものです。
FDAによれば、Boston Scientificは2026年3月18日時点で、この問題に関連して4件の死亡および2,557件の重篤な傷害を報告しています。今回の対応は、すべての患者から機器を摘出するものではなく、ソフトウェアアップデートおよび添付文書改訂により問題への対応を図るものとされています。
薬事・品質保証上の注目点
植込み型医療機器では、不具合発生時の影響が重大になりやすく、市販後安全管理、フィールドアクション、医療機関への情報提供、ソフトウェア更新手順が極めて重要です。
今回の事例は、医療機器において「承認取得後の管理」が製品価値と事業継続性に直結することを示しています。特に、ソフトウェアを含む医療機器では、設計段階からサイバーセキュリティ、アップデート管理、不具合時のリスク低減策を含めたライフサイクル管理が求められます。
Carl Zeiss Meditec、収益改善に向けた包括的な施策を発表
Carl Zeiss Meditecは、2025/26年度上半期の業績について、売上高が前年同期比5.7%減の9億9,100万ユーロ、調整後EBITAが6,050万ユーロとなったことを発表しました。同社は、地政学的・規制上の不確実性、投資判断の慎重化、眼内レンズ事業の影響などを背景に、収益性改善に向けた包括的な施策を進める方針を示しています。
同社は、2028/29年度までに年間2億ユーロ超の利益改善を目指すとしています。報道では、この施策により最大1,000名規模の人員に影響が及ぶ可能性があるとされています。
薬事・事業開発上の注目点
眼科領域やマイクロサージェリー領域でも、各国の医療費抑制、入札制度、規制対応、市場環境の変化が業績に大きく影響します。医療機器メーカーにとっては、製品開発だけでなく、各国の保険償還、調達制度、市販後対応、製品ポートフォリオの見直しを一体で考える必要があります。
国内医療関連企業の通期決算
2026年3月期の国内医療関連企業の通期決算では、海外市場やヘルスケア事業を背景に成長を続ける企業がある一方、中国市場の政策影響や製品構成の変化により収益性が低下した企業も見られました。
| 企業名 | 売上高 | 営業利益 | 親会社株主・所有者帰属当期利益 |
|---|---|---|---|
| テルモ | 1兆1,318億円(前期比+9.2%) | 1,763億円(前期比+11.8%) | 1,359億円(前期比+16.2%) |
| 富士フイルムHD | 3兆3,570億円(前期比+5.0%) | 3,502億円(前期比+6.1%) | 2,767億円(前期比+6.0%) |
| シスメックス | 5,000億円 | 518億円 | 354億円 |
薬事・事業開発上の注目ポイント
今週のニュースからは、医療機器業界における以下の傾向が読み取れます。
1. 成長領域への投資とポートフォリオ再編が続いている
IVL、CGM、手術支援ロボット、心血管領域など、成長が見込まれる分野では、大手企業による買収や事業再編が続いています。新規技術を日本市場に展開する場合、海外での開発状況だけでなく、日本での一般的名称、クラス分類、既承認品との差分、臨床評価、保険償還の整理が重要になります。
2. ソフトウェア・デジタル要素を含む医療機器の管理が重要になっている
CGMや植込み型ペースメーカーの事例に見られるように、医療機器におけるソフトウェア、アルゴリズム、アップデート管理、市販後安全管理の重要性は高まっています。承認取得時だけでなく、市販後の不具合対応、添付文書改訂、医療機関への情報提供まで含めた体制整備が必要です。
3. 各国の政策・償還・調達環境が業績を左右している
シスメックスの中国市場影響、Carl Zeiss Meditecの眼科領域における市場環境、富士フイルムの内視鏡・バイオCDMOの成長などから、医療機器・ヘルスケア企業の業績は、製品力だけでなく各国の政策、保険償還、調達制度、医療費抑制策にも左右されることが分かります。
まとめ
今週の医療機器・ヘルスケア業界では、大手企業によるポートフォリオ再編と成長領域への投資が目立ちました。StrykerによるIVL技術企業の買収、Dexcomの次世代CGM構想、Medtronicの心血管領域の再編はいずれも、成長市場に経営資源を集中させる動きといえます。
一方で、Boston Scientific製ペースメーカー関連のClass Iリコールは、医療機器における市販後安全管理、ソフトウェア更新、医療機関への迅速な情報提供の重要性を改めて示しました。医療機器メーカーにとって、承認取得後の品質管理・安全管理体制は、事業継続性に直結する重要な要素です。
国内企業では、テルモや富士フイルムが海外市場やヘルスケア事業を背景に堅調な業績を示す一方、シスメックスは中国市場の政策影響を受けました。今後も、各国の規制、保険償還、医療費抑制政策、サプライチェーンリスクを踏まえた市場戦略が重要になります。
医療機器の市場参入においては、製品の技術的特徴だけでなく、JMDN・一般的名称、クラス分類、申請区分、臨床評価、QMS、保険償還、市販後安全管理までを早期に整理することが重要です。
参考文献
- Stryker, “Stryker completes acquisition of Amplitude Vascular Systems to add next-generation IVL technology to peripheral vascular portfolio,” May 7, 2026.
- Dexcom, “Investor Day 2026 Presentation,” May 2026.
- MedTech Dive / Yahoo Finance, “Medtronic to close California site amid restructuring,” May 2026.
https://finance.yahoo.com/news/medtronic-close-california-amid-restructuring-111014360.html
- U.S. FDA, “Pacemaker Correction: Boston Scientific Issues Correction for ACCOLADE Pacemakers and CRT-Ps,” May 7, 2026.
- Carl Zeiss Meditec, “Half Year Financial Communication 2025/26,” May 12, 2026.
- Terumo, “2026年3月期 通期 決算データファイル,” May 2026.
https://www.terumo.co.jp/system/files/document/2026-05/Presentation_26Q4_datafile.pdf
- FUJIFILM Holdings, “Full-Year Results for the Fiscal Year Ended March 31, 2026,” May 2026.
https://holdings.fujifilm.com/en/news/list/2127
- Sysmex, “業績予想,” 2026年5月更新.
https://www.sysmex.co.jp/ir/finance/forecast.html
- McKesson, “McKesson Reports Fiscal 2026 Fourth Quarter and Full Year Results,” May 2026.
- Intuitive Surgical, “Intuitive Announces First Quarter Earnings,” April 21, 2026.