医療機器の薬事手続きに必要な試験・評価の考え方

日本で医療機器の承認・認証を取得し、または製造販売届出を行う際、「どの試験を実施すればよいか」は製品ごとに異なります。

生物学的安全性、性能、機械的安全性、電気的安全性、EMC、滅菌、包装、耐久性、ソフトウェアなど、医療機器にはさまざまな評価項目がありますが、すべての製品ですべての試験が必要になるわけではありません。

必要な試験は、製品の使用目的、一般的名称、クラス分類、申請ルート、既承認品との差分、適用規格、リスクマネジメントなどを整理したうえで決定します。

そのため、日本での申請では「まず試験をする」のではなく、何を証明する必要があるのかを整理してから試験計画を立てることが重要です。

日本での申請に必要な試験は一律ではありません

医療機器の安全性や性能を説明するために必要な試験は、製品の特性によって大きく異なります。

例えば、患者に接触する医療機器では生物学的安全性の評価が重要になりますが、電気を使用する機器では電気的安全性や電磁両立性(EMC)の評価が論点になります。

滅菌済みで供給する製品では滅菌方法や無菌性の保証、包装、有効期間などの評価が必要となることがあります。

ソフトウェアを含む医療機器では、ソフトウェアライフサイクル、リスクマネジメント、サイバーセキュリティなどの評価も検討します。

重要なのは、試験項目を一覧から機械的に選ぶことではなく、その製品の安全性と性能を説明するために何が必要かを整理することです。

試験項目を決める前に確認すること

1. 使用目的と製品仕様

まず、その製品が何を目的として、どのような患者に、どのような環境で使用されるのかを整理します。

同じような構造の製品でも、使用目的や使用部位、使用時間、使用者、使用環境が異なれば、必要となる評価も変わることがあります。

2. 一般的名称とクラス分類

日本では、一般的名称やJMDNコード、クラス分類を確認し、製造販売届出、登録認証機関による認証、PMDA審査を伴う製造販売承認のどの手続きに該当するかを整理します。

クラス分類だけではなく、認証基準や承認基準の有無も確認します。

3. 既承認品・既認証品との差分

日本で既に承認・認証されている類似製品がある場合、その製品との違いを整理します。

例えば、

  • 使用目的
  • 原材料
  • 構造
  • 寸法
  • 性能
  • 使用方法
  • 滅菌方法
  • ソフトウェア
  • 使用環境

などの差分を確認します。

差分が大きい部分ほど、その妥当性を説明するための追加試験や資料が必要になる可能性があります。

4. 基本要件基準とリスクマネジメント

医療機器では、基本要件基準への適合性を確認する必要があります。

基本要件基準の各要求事項について、適用・不適用を判断し、適用する要求事項についてどの規格、試験、設計資料、リスクマネジメント資料などによって適合性を示すかを整理します。

試験は、その適合性を示す手段の一つです。

5. 適用規格

JIS、ISO、IECなどの規格を使用する場合は、

  • その規格が製品に適用できるか
  • 日本の認証基準・承認基準等でどの版が引用されているか
  • 試験した規格の版と現在求められる版に差がないか
  • 差分をどのように説明するか

を確認します。

海外ですでに試験を実施している場合も、この確認が重要です。

主な試験・評価項目

性能試験

性能試験では、医療機器が意図した性能を実際に発揮できることを確認します。

必要な試験項目は製品ごとに異なります。

例えば、カテーテルや内視鏡処置具であれば、

  • 引張強度
  • 接続部強度
  • キンク耐性
  • トルク伝達性
  • 挿入性
  • 耐圧性
  • 流量
  • 寸法
  • 作動性
  • 繰り返し使用時の耐久性

などが評価対象になることがあります。

ただし、これらがすべての製品で必要になるわけではありません。

申請する性能仕様や臨床使用方法との関係から、必要な試験を決定します。

物理的・化学的特性

使用する材料や製品特性によっては、物理的・化学的特性の評価が必要となります。

例えば、

  • 原材料の特性
  • 化学組成
  • 表面特性
  • コーティング
  • 溶出物
  • 材料の劣化
  • 製造工程による影響

などを確認します。

原材料や製造工程が既承認品と異なる場合、その差分が安全性や性能に与える影響を評価します。

生物学的安全性

患者または使用者に接触する医療機器では、接触部位・期間、材料、製造工程、滅菌、既存データなどを踏まえて生物学的安全性を評価します。ISO 10993の試験を一律に実施するのではなく、製品ごとのリスクに応じて必要な評価を整理します。詳しくは「医療機器の生物学的安全性評価」をご覧ください。

電気的安全性・EMC

電気を使用する医療機器では、電気的安全性や電磁両立性(EMC)の評価が必要となる場合があります。

製品によっては、IEC 60601-1やIEC 60601-1-2に対応するJIS・国際規格などが評価に使用されます。

さらに、製品固有の個別規格が存在する場合があります。

そのため、単にIEC 60601-1の試験を行えば十分というわけではなく、製品の種類、使用環境、電源、接続機器、無線機能などを踏まえて適用規格を確認します。

滅菌・微生物学的安全性

滅菌済みで供給する医療機器では、滅菌方法の妥当性や無菌性保証に関する資料が必要になります。

日本では、PMDAの関連通知として「滅菌医療機器の製造販売承認(認証)申請における滅菌に関する取扱いについて」が示されています。

エチレンオキサイド、放射線、湿熱など、採用する滅菌方法によって確認事項は異なります。

滅菌条件だけでなく、製品材料への影響、残留物、包装、有効期間なども含めて評価することがあります。

包装・有効期間

滅菌品や保存条件が性能に影響する製品では、包装の完全性や有効期間の設定根拠が必要になることがあります。

承認申請書に貯蔵方法や有効期間を設定する場合は、その妥当性を説明できる資料を準備します。

評価では、製品によって、

  • 包装完全性
  • シール強度
  • 経時変化
  • 材料劣化
  • 滅菌状態の維持
  • 性能維持

などを確認します。

加速劣化試験を使用する場合でも、製品特性や試験条件の妥当性を確認する必要があります。

ソフトウェア

ソフトウェアを含む医療機器では、ソフトウェアの安全性や設計開発プロセスについて説明する必要があります。

製品によっては、IEC 62304等に基づくソフトウェアライフサイクルプロセスを確認します。

ソフトウェア単体の医療機器だけでなく、ハードウェアに組み込まれたソフトウェアについても、製品の安全性や性能に影響する場合は評価対象となります。

サイバーセキュリティ

ネットワーク接続、無線通信、外部システムとのデータ通信などを行う医療機器では、サイバーセキュリティも重要な評価項目です。

日本では基本要件基準にサイバーセキュリティの要求事項が追加され、サイバーリスクが懸念される医療機器については、改正後の要求事項への適合が求められています。

製品の接続構成、ソフトウェア、通信方法、アップデート方法などを踏まえて、必要なリスク評価と対策を整理します。

ユーザビリティ

操作方法が安全性に影響する医療機器では、ユーザビリティエンジニアリングの検討が必要になる場合があります。

日本ではJIS T 62366-1がユーザビリティエンジニアリングに関する規格として位置づけられています。

誤操作によるリスクがある場合には、使用者、使用環境、操作手順、ユーザーインターフェースなどを含めて評価します。

臨床試験の要否

臨床試験の要否は、製品特性、既承認品との差分、非臨床試験成績、既存の臨床データなどを踏まえて判断します。

非臨床試験、既存の臨床データ、文献、既承認品との比較などによって有効性・安全性を説明できる場合があります。

一方、新しい原理、新しい使用目的、既承認品との大きな差分などがあり、非臨床試験だけでは臨床的な有効性・安全性を十分に説明できない場合には、臨床試験が必要になる可能性があります。

PMDAには、非臨床試験の成績等をもとに、新たな臨床試験の実施要否を確認する相談区分もあります。

臨床試験を実施するかどうかは、開発後期ではなく、必要に応じて早い段階で整理しておくことが重要です。

海外で実施した試験データは日本での申請に使えるか

海外ですでに実施した試験成績を、日本の承認・認証申請に利用できる場合があります。

ただし、「海外で試験済みだからそのまま使える」と判断するのではなく、次の点を確認します。

  • 試験品が日本で申請する製品を代表しているか
  • 原材料や構造が同じか
  • 製造工程が同じか
  • 滅菌方法が同じか
  • 適用した規格とその版が適切か
  • 試験方法が現在の申請目的に合っているか
  • 判定基準が日本での申請仕様と整合しているか
  • 試験報告書と根拠資料が確認できるか
  • 製品変更後の影響が評価されているか

PMDAの信頼性調査では、申請に提出される試験データについて、正確性、完全性・網羅性、保存性などが確認されます。

そのため、試験結果のサマリーだけではなく、試験計画、試験報告書、根拠資料などを確認できる状態にしておくことが重要です。

海外メーカーの場合は、日本での申請を開始してから追加試験が必要であることが判明すると、市場参入スケジュールに大きく影響します。

日本向けの試験計画を作成する前に、既存の試験資料を一覧化し、日本要求事項とのギャップを確認する方法が効率的です。

試験品と最終製品の整合

試験結果が良好であっても、その試験に使用した製品が実際に日本で販売する製品を代表していなければ、申請資料として十分な説明にならないことがあります。

特に、

  • 原材料変更
  • コーティング変更
  • 寸法変更
  • 製造工程変更
  • 製造所変更
  • 滅菌方法変更
  • ソフトウェア変更

などが行われている場合は、既存試験への影響を確認します。

必ずしもすべての試験をやり直すという意味ではありません。

変更内容が安全性・性能へ与える影響を評価し、既存試験を利用できるのか、追加試験が必要なのかを判断します。

試験計画の流れ

試験計画は、次の順番で整理すると効率的です。

使用目的・製品仕様 → 一般的名称・クラス分類 → 承認・認証・届出の申請ルート → 認証基準・承認基準・適用規格 → 既承認品との差分 → 基本要件基準・リスク分析 → 既存試験データの確認 → 不足資料・追加試験の特定

この順番で整理することで、海外で取得済みのデータを活用しながら、日本での申請に本当に必要な追加試験を絞り込みやすくなります。

よくある失敗

申請ルートを決める前に試験を開始する

一般的名称、申請区分、認証基準などを確認せずに試験を始めると、後から試験方法や評価項目が不足していることが分かる場合があります。

海外の試験規格をそのまま日本に適用する

海外で使用したISO・IEC規格が、日本の認証基準や申請時に確認すべき規格の版と一致しているとは限りません。

規格番号だけではなく、版や適用範囲を確認します。

CE・FDA向け資料をそのまま提出する

海外承認資料は有用ですが、日本の使用目的、申請書、基本要件基準、申請区分に合わせて整理する必要があります。

製品変更後も過去の試験をそのまま使用する

原材料、製造工程、滅菌、ソフトウェアなどに変更がある場合は、その変更が既存試験結果に影響するかを確認します。

試験結果だけを確認して根拠資料を残していない

承認申請では、試験データの信頼性も重要です。

試験計画書、試験報告書、生データ等の根拠資料を適切に管理しておく必要があります。

試験開始前の薬事戦略

日本の医療機器申請では、試験を多く実施すればよいというものではありません。

必要なのは、その製品の安全性と性能について、申請ルートとリスクに応じた適切な根拠を用意することです。

特に海外メーカーの場合、すでに保有しているISO・IEC試験、FDA向け資料、CEマーキング・MDR向け資料などを確認したうえで、日本向けに利用できるデータと不足するデータを整理することが重要です。

MKコンサルティングでは、製品仕様、既存試験資料、海外承認資料、既承認品との差分を確認し、日本での申請に必要となる試験・評価項目を整理します。

試験を開始する前の段階から、申請方針、PMDA相談、試験計画、STED作成までを一連の薬事戦略として検討することで、不要な試験や手戻りを減らし、日本市場参入を効率的に進めることができます。

よくある質問

日本での申請では、試験を日本国内の試験施設で実施する必要がありますか?

+

海外で実施した試験成績を日本での申請に利用できる場合があります。

重要なのは実施国だけではなく、試験品が日本で申請する製品を代表しているか、試験方法や規格が適切か、根拠資料の信頼性を確認できるかなどです。

ISO 10993の試験はすべて必要ですか?

+

すべてを一律に実施するものではありません。

人体との接触部位、接触期間、原材料、製造工程、滅菌などを踏まえ、リスクベースで必要な生物学的安全性評価を整理します。

電気を使用する製品はIEC 60601-1だけ実施すれば十分ですか?

+

製品によって異なります。

電気的安全性に加え、EMC、個別規格、無線通信、ソフトウェア、使用環境などの評価が必要になる場合があります。

プロトタイプで実施した試験結果を申請に使えますか?

+

利用できる場合がありますが、その試験品が最終製品を適切に代表していることを説明できる必要があります。

原材料、構造、製造工程、滅菌方法などに差がある場合は、その差分の影響を評価します。

臨床試験が必要かどうかはいつ判断しますか?

+

非臨床試験や既存資料でどこまで有効性・安全性を説明できるかを整理したうえで判断します。

判断が難しい場合は、開発の早い段階でPMDA相談を利用する方法があります。